植物を活かすサスティナブルな社会。鍵は過去にある。【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第6回(最終回)
■小さな、小さなサスティナブルファッション会議
衣服の中でも勿論、環境への配慮、検討が進んでいる。 私のクリエイター仲間である2人も取り組みをはじめている。アパレルブランドを立ち上げている福川さんと、テキスタイルのプロである伊藤さん。いつも物事に真摯に向き合う彼ら。なんとなく気が合うのではと思っていたが、福川さんから伊藤さんの携わるプロジェクトを紹介してほしいと頼まれたのがきっかけで、私たちの小さなサスティナブルファッション会議が実現した。
近年話題によく上がるフードロス。廃棄されてしまう予定の食べ物を染料として使った布のプロジェクト、フードテキスタイルに伊藤さんは携わっている。彼が携わるこのプロジェクトで、私も静岡緑茶のオリジナルテキスタイルを作らせてもらった。
福川さんも自分のブランドに使用する素材の背景や、長年愛される使い続けてもらうための工夫を考えていた。規模の小さなデザイナーやメーカーが作ったものは、大量生産された衣類より価格が高くなる。衣服に限らず、全てのアイテムに言えることだが、1商品あたりの諸経費の負担額が大きくなるからだ。価格に見合う品質の保持は勿論、消費者がそのブランド商品を購入する意味、価値を見出せる背景が重要になる。
ウェルビーイング、いかによく生きるかということは消費の観点でも重要なポイントとなってきた。小回りのきく私たちだからこそできることはないかと、アイディアも意見も尽きることはなかった。
「やはり、衣服について考えるとリサイクルとリユースを考え抜かなければ行けない時代。」「自分が作った服がどのように使われていくのか、そして廃棄されるその先を考えなければブランドの存在意義は見いだしてもらえない。 」「着物の染め直し文化が、今のデザイナーブランドでも注目されている。実は私の服も藍で染め直している。」「消費は応援と言われる中で、価格に負けない価値をどこまで伝えられるか。」
そして、小さな会議が撒いた種がこの春花開いた。福川さんのブランドKEYCOからフードテキスタイルの植物染料で仕上げた布を使うラインナップが登場したのだ。我々は、誰かが喜ぶ一瞬を真摯に考えることが世界を変えていくと信じている。
知恵と植物が切り開く未来。日常も非日常も植物を活かしていく
私はというと、洗濯洗剤を買い込んでいる。衣類を長く保ち、心地よく切るためには日常の「洗濯」が重要だからだ。洗濯の歴史は長い。川で洗ったり、尿を発酵させたアンモニア水でふみ洗ったりした頃から大きく進化し、清潔な毎日を保ってくれているのが洗濯洗剤・石鹸だ。
ナチュラル思考も広まる中で、商品の生産背景や排水後の環境影響に意識を持つ人も増えてきた。多くの自然派洗濯用品が出回っているが、かなりの誇大広告、偽の特許報告も確認している。3ヶ月の調査でも、片手では足りないくらいだ。偽科学や印象操作にあっさり流されてしまっている人のS N S投稿を見るたびに情報選択の難しさを痛感する。
ナチュラル思考、自然なものはいいというイメージの中で植物も悪用されている。実際には肌にいいと言い切れないものが入っていても、植物由来で肌に優しいと言い切る。天然成分で出来ている商品でも、環境破壊や劣悪な労働環境促進に加担する素材を使用している場合もある。
環境というのは、一辺を切り出して見えるものではない。多面的に考えるべきだし、短期では判断できず、長期的に結果を見る必要もある。バランスを見極めながら、できる限り世界にとって良い方に物事を傾けていく。
何気なく手にとった洗濯洗剤やTシャツ、チョコレートやお茶にお酒。特別大きな変化を期待するわけではない、日常に溢れるアイテムが、暮らしを支え、自分にも環境にも大きな影響を与えている。どんな瞬間も植物を活用することはできるが、どう使うかは冷静に判断したい。考えることは山積みである。「植物採集家の七日間」の旅は終わるけれど、植物探求の長い旅はまだはじまったばかりだ。
古長谷莉花 植物採集家
1986年静岡生まれ。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行っています。
撮影協力
KEYCO デザイナー 福川登紀子氏
デザイナー 伊藤佳史氏
沼津蒸留所/FLAVOUR(フレーバー)永田暢彦氏